| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-261 (Poster presentation)
哺乳類の大部分は陸生であるが、カイギュウ類、クジラ類、鰭脚類およびカワウソ類といった分類群は水生に移行している。水生哺乳類の中には、陸生哺乳類では見られない体サイズに進化した種が存在する。体サイズにかかる選択は陸生と水生で異なり、水生分類群で特異的な進化が起こっていると期待される。形質進化に対してOrnstein–Uhlenbeck (OU) モデルを適用した系統種間比較によると、カイギュウ類、クジラ類および鰭脚類の体重の進化は、それぞれ近縁の陸生分類群と異なり、大きな最適値に収束するモデルが支持されている。しかし、カワウソ類では、陸生分類群と異なる進化を表すモデルは支持されていない。
OUモデルは、形質が最適値に収束しており、安定化選択を受ける状態にあることを仮定する。水生への適応進化が生じた時間が短い場合、OUモデルよりも、方向性選択による形質進化を仮定するモデルが適合するかもしれない。カワウソ類はイタチ科内の1つのクレードを構成し、陸生の祖先から分岐したのは比較的最近であると推定される。シミュレーションに基づく近似尤度および近似ベイズ計算を利用して、イタチ科における体重の進化を分析したところ、カワウソ類クレードで特異的な大型化の方向性選択の作用が検出された。カワウソ類の中で、ラッコは最も体が大きく、唯一ほぼ完全な水生に適応した種である。しかし、ラッコと他のカワウソ類との間で方向性選択の強さの差は検出されなかった。また、方向性のない形質進化モデルの下では、カワウソ類クレードで体重の進化速度の増加は検出されず、水生で体サイズの制約が緩和されて進化が促進されるという仮説は支持されなかった。本研究の結果は、イタチ科において、水生に移行すると体サイズを大型化させる選択が作用することを示唆している。