| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-262  (Poster presentation)

可塑性による共食い二型:発現の初期過程
Induced cannibalistic dimorphism:initial stage of the expression

*田中俊太郎, 西村欣也(北海道大学)
*Shuntaro TANAKA, Kinya NISHIMURA(Hokkaido University)

【背景・目的】
表現型可塑性は生物個体が持つ環境に応じて表現型を変化させる能力である。
社会的相互作用は可塑性による個体の表現型に変化をもたらす要因の一つで、集
団の表現型に二型を生じさせることがある。表現型可塑性に基づく集団の二型化
の枠組みから、近年、共食い集団が研究されている。同齢集団内で形態の異なる
攻撃的な共食いタイプ、防御的な非共食いタイプに分かれ、二型が生じることが
ある。ゲーム理論の視点から、共食いが見られる同齢集団の発生過程において、
個体は自身の状態と他個体の状態に依存した相互作用の結果、共食い戦術をとる
か防御戦術をとるか選択・決定した後、それぞれの表現型タイプに方向付けされ
ていくと予想されるが、共食い発生に先立つ過程についての研究は少ない。本研
究では幼生期に共食いが生じるエゾサンショウウオを用い、共食い発生に先立つ
個体の形態と、共食い発生後の個体のタイプの関係から、表現型タイプの分化の
方向付けがどのように起こるかを調べた。
【材料・方法】
エゾサンショウウオ( Hynobius retardatus )は北海道に生息する有尾類の一種で
、表現型可塑性の研究対象としてよく用いられ、幼生集団では共食いが観察され
る。共食いに伴う表現型分化の方向付けを調べるために、本種の孵化幼生を用い
て実験を行った。幾何学的形態解析法によって形態を定量化し、 解析を行った。
【結果】
共食い発生に先立ち、共食いタイプは他の個体に対して形態的差異が見られ、
共食い発生後の共食いタイプの形態的特徴と一致していた。非共食いタイプの形
態は、共食いタイプ、他個体の存在によって形態発生の方向が異なることが分か
った。
【考察】
共食い発生に先立ち、共食いタイプは集団内の他の個体に対して形態的差異が
見られたことから、行動に先立ち、形態が分岐すると考える。また、非共食いタ
イプにおいても、共食いタイプや他の個体に依存し、表現型を選択し、方向付け
をしていると考える。


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