| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-264 (Poster presentation)
日本産フユシャクガの中で早春昼飛性のフユシャクガには、フチグロトゲエダシャクとカバシタムクゲエダシャクの2種が存在する。これら2種の間には、生態的な特性において共通した特徴があることから、以前から系統的な近縁性が示唆されていた。しかしながら近年に至るまで、カバシタムクゲエダシャクの生態や分布に関する情報が極めて少なかったことから、両種の系統的位置や近縁性に関する情報を得ることが出来なかった。
本研究では、上記2種に共通する生態学的、形態学的特性に着目し、以下の2点について観察と解析を行った:(1)メスが無翅であるフチグロトゲエダシャクとカバシタムクゲエダシャクの翅原基の発生過程の比較観察を、解剖レベルと組織形態レベルで行った。(2)シャクガ科内における2種の系統的位置を明らかにする目的で、エダシャク亜科Boarmiini族の網羅的な分子系統解析を行った。更にこの分子系統解析に基づき、分子系統樹上での翅退行化の進化プロセスの推定を行った。
また、フユシャクガの非飛翔性の起源については以下の3つの適応仮説が存在する:(1)森林適応仮説;(2)寒冷環境適応仮説;(3)飛翔性捕食者回避仮説。しかしながら、これらの仮説からフチグロトゲエダシャクとカバシタムクゲエダシャクを含む昼飛性フユシャクの非飛翔性の起源と適応戦略を説明することは出来ない。既存の諸概念を見直し、再検討を行うことにより、新たに「早春昼飛性適応仮説」を提示した。本仮説に基づき、今後は非飛翔化・無翅化の起源とその適応的意義の更なる解明に取り組んでいきたい。