| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-266 (Poster presentation)
毒を持つ被食者同士が互いに似た警告色を持つミュラー型擬態は様々な分類群で報告されているが、その具体的な進化条件は明らかではない。ミドリババヤスデ種複合体とアマビコヤスデ属は、共に青酸系防御液を分泌し、互いの分布が重なる本州から九州にかけて、共に似た灰色の体色を呈する。ヤスデ型クレイモデルを用いた野外実験とヤスデの体色と生息環境背景色の波形を用いたJND解析から、日中のヤスデ類の捕食者としては鳥類が考えられ、灰色は鳥類に対してよく目立つ警告色と推定された。これらのことから、灰色の類似は鳥類捕食者に対するミュラー型擬態環と考えられる。一方で、ミドリババヤスデ種複合体には、オレンジもしくは灰色とオレンジの中間色を呈する種が一部に見られる。RAD-seq系統に基づく体色の祖先状態復元から、これらの種は灰色擬態環から祖先状態のオレンジもしくは中間色に移行(擬態環の消失)、もしくは近縁のオレンジ種と新たにオレンジ擬態環を形成したと考えられる。このような擬態環の消失や移行は過去に報告がない。しかし、クレイモデルを用いた野外実験の結果からは、オレンジの警告色は灰色のそれよりも鳥類による捕食圧を低下させることは示唆されなかった。一方で、ハエ類の捕食寄生についての野外調査からは、灰色のヤスデ種に偏った捕食寄生が示されている。この特異な擬態環の消失や移行は、従来の擬態の研究においては注目されてこなかった、捕食寄生者によって生じているのかもしれない。