| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-270  (Poster presentation)

擬態原因遺伝子は擬態雌幼虫の成長を阻害する: メス限定的ベイツ型擬態多型の維持機構
Mimicry locus prevents larval female development: a mechanism for maintaining female-limited polymorphism in Batesian mimicry.

*加藤三歩(琉球大学), 立田晴記(琉球大学, 鹿児島大学大学院), 辻和希(琉球大学, 鹿児島大学大学院)
*Mitsuho KATOH(Univ. of the Ryukyus), Haruki TATSUTA(Univ. of the Ryukyus, Kagoshima Univ.), Kazuki TSUJI(Univ. of the Ryukyus, Kagoshima Univ.)

  シロオビアゲハのメスは、擬態型と非擬態型からなる多型を呈する。この多型は、常染色体上の一対立遺伝子Hによって制御され、擬態型が非擬態型に対して顕性である。擬態型は、捕食者にとって食に適した種が捕食を避けるために食に適さない種に擬態するベイツ型擬態の例として取り上げられる。興味深いことに、擬態型と非擬態型は東南アジアから琉球諸島の地域集団ではっきりと共存しており、捕食選択上有利だと考えられる擬態型が有利ではない非擬態型に完全にとって代わることなく多型を集団中に維持させているという大きな疑問を内包している。多型を維持させたまま平衡状態になる時系過程は野外でも示されている。例えば、宮古島では1975年にベニモンアゲハが定着した後、擬態型のメス集団中の割合はS字状に増えていき、観察開始の10年後、およそ50%前後に達すると増加は打ち止めになった。なぜ本種のメス多型は執拗に維持されるのか。従来、ベイツ型擬態種の擬態のフィットネスはモデル種の相対頻度に依存するため、ベイツ型擬態種のアバンダンスはモデル種のアバンダンスを上限に“飽和”すると信じられていた(負の頻度依存選択説)。しかし、近年の研究では、ある条件ではフィットネスはそのモデルの絶対密度のみで決まり、ベイツ型擬態種のアバンダンスはモデル種のアバンダンスに抑制されないという。本研究で我々は、非擬態型から擬態型に入れかわることを制御する要因として、既存の仮説とは異なる仮説を提唱する。すなわち、擬態型の発現に関与する遺伝子の蓄積が幼虫の生存率を低下させるという仮説であり、その経験的な検証を行った。


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