| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-274  (Poster presentation)

スイセンハナアブの色彩多型の進化
Evolution of color polymorphism of Merodon equestris (Diptera, Syrphidae)

*須島充昭(東京大学)
*Mitsuaki SUTOU(The University of Tokyo)

スイセンハナアブには様々な毛色の個体が現れる顕著な色彩多型が知られており、複数種のマルハナバチに擬態していると考えられている。本種は北半球の温帯で広く外来種として知られているが、その自然分布域は、幼虫の主な餌であるスイセンの原種の分布などから、ヨーロッパ南部と推測されている。この地域は世界で最もマルハナバチの種の多様性の高い地域の一つであり、スイセンハナアブの色彩多型の進化は、こうした環境と深く関わっていると考えられる。しかし、環境には様々な要素があり、複数の要素が色彩多型の進化に影響を及ぼしている可能性もある。本研究ではこの点について、本州の4地点(東京、横浜、埼玉、仙台)で行ったスイセンハナアブの生態調査の結果から推測した。これらの地点で、スイセンハナアブ属(Merodon)とこれに比較的近縁なハラブトハナアブ属(Mallota)の訪花植物の選好性について調べたところ、スイセンハナアブ属では草本植物を好む傾向が顕著であった。一方で森林性のハナアブであるハラブトハナアブ属では、木本植物を好んで訪花していた。スイセンハナアブは、成虫の訪花植物に加え幼虫の餌も草本植物であるため、主に地面付近で活動している昆虫である。成虫の採餌場所はしばしば交尾場所となり、その後メスは幼虫の餌植物を探索してその根元付近に産卵する。こうした生態の特徴から、本種の色彩多型は、地面付近での隠蔽色(茶色)と警告色(マルハナバチに類似する横縞模様)の混成として進化したと推測した。スイセンハナアブは現在、アジアやアメリカでは外来種として知られている。隠蔽色が侵入地でも有効であると考えられるのに対し、警告色は類似する色彩のマルハナバチが分布していなければ有効とはならないと考えられる。


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