| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-278  (Poster presentation)

数理モデルから考察する性感染症の存続性
Survivability of Sexual Transmitted Infections (STIs) in theoretical perspective

*伊東啓(長崎大学), 山本太郎(長崎大学), 守田智(静岡大学)
*Hiromu ITO(Nagasaki Univ.), Taro YAMAMOTO(Nagasaki Univ.), Satoru MORITA(Shizuoka Univ.)

長きに渡り、人類は性感染症(STIs)に苦しめられてきた。これまでに様々な対策が講じられてきたが、性感染症の蔓延は衰えることを知らない。性感染症の効果的な拡散防止戦略をたてるためには、その拡散効果を理解することが重要であり、拡散数理モデルの構築や、ヒトの性接触のネットワーク構造の理解は公衆衛生上大きな意義を持つ。このように性感染症の研究は実用的な面もある一方、その生態学的な側面も非常に興味深い。なぜなら、性感染症は性感染(水平伝播)と母子感染(垂直伝播)で感染を広げるため、生物が避けて通れない行為(交尾と出産)を利用した巧みな生存戦略を持つということに他ならないからである。ここでは、我々が開発した数理モデルと、日本における性接触頻度のWeb調査の結果を紹介する。前者は、性接触の複雑ネットワークを踏まえた性感染と母子感染を同時に考慮した世界初のモデルであり、この計算から性感染と母子感染の拡散効果をそれぞれ把握することができる。後者は日本における性接触する異性の人数の分布が、男女ともに冪分布に従う(ネットワークにスケールフリー性がある)ことをアジア圏で初めて発見したものである。これらの研究成果を紹介しつつ、性感染症の存続性について考察することで、性感染症研究の生態学的な意義についても議論したい。


日本生態学会