| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-290  (Poster presentation)

ウニの殻にえいを形成するエボシガイの生態
An unusual stalked barnacle living communally in a semi-open gall of a sea urchin test

*山守瑠奈, 加藤真(京都大学)
*Luna YAMAMORI, Makoto KATO(Kyoto University)

寄生性の生物は海陸ともに様々なものが知られているが、陸上では昆虫、線虫、菌類等、植物にえいを形成するものが多く見られる。しかし、海洋ではえい形成は稀であり、多くの寄生・共生者は生物の体表に直接付着している。
エボシガイ類(完胸上目: 鞘甲下綱: 節足動物門)は様々な基質に付着して生活する甲殻類で、その基質は潮間帯の岩や漂流物から生きた底生甲殻類、魚類、クラゲ類まで様々である。今回私たちは沖縄県北部のサンゴ礁において、有毒ウニのガンガゼモドキの殻上に生息するヤドリエボシ類の一種を採集した。この 種は、ガンガゼから報告されて以来一度も報告の無かった Rugilepas pearsei と同定された。本種はウニの殻に柄部先端の爪状突起を差し込んで付着しており、ウニと同色を呈し、殻を完全に失っている。付着部周囲 のウニの殻は半開口のえい状に肥厚し、2〜4 個体のエボシガイがその癭の中に身を寄せ合っていた。また、ガンガゼモドキの殻には無毒で太い一次棘と有毒で細い二次棘が規則的に並ぶが、えいの周囲は棘の配列 が改変され、一次棘が消失して高密度の有毒な二次棘に置き換わっていた。 ウニに付着するエボシガイ類の殆どは棘に付着するが、殻に付着し、まして宿主の組織を改変する種は本種が唯一の例である。 ウニの殻を改変する生物は中生代の化石記録で複数報告されており、そのいくつかは橈脚類によるものと推測され ている。現生のものでは、大西洋の深海のウニから橈脚類による癭が知られているが、浅海のウニの殻にえい形成を誘導するのは本種が唯一である。 本発表では、このエボシガイによる宿主ウニの硬組織改変の様相 を断面画像解析の結果と共に報告し、エボシガイの行動や宿主との関係性を議論する。


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