| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-297 (Poster presentation)
シカ類の分布拡大や個体群密度増加に伴う農林業被害や生態系被害が全国で深刻な課題となっている。これらの被害に対し、対象エリアから物理的にシカ類を排除する防鹿柵の設置が各地で取り組まれており、その効果の検証が森林生態系を中心に進められてきた。近年では、多くの絶滅危惧動植物が生息し、自然観光地としても重要な高山・亜高山域においてもシカによる影響が顕在化しており、いくつかの研究で草原生態系の植物種多様性の保全においても防鹿柵の設置が有効であることが示されている。一方で、種多様性と絶滅危惧種の分布は必ずしも一致せず、適用面積の限られる防鹿柵の設置では出現頻度の低い種を考慮できない可能性がある。本研究では、亜高山帯に位置する半自然草原を対象に、種多様性保全に有効な防鹿柵が絶滅危惧植物の保全にも寄与しうるかを検証した。
長野県八ヶ岳中信高原国定公園内の半自然草原3地域(霧ヶ峰、八島ヶ原、美ヶ原)に設置された7防鹿柵を対象に、柵内および柵外に計30トランセクトを設置した。開花調査として各コドラートで顕花植物を対象に開花植物種および開花数を計測した。また、各トランセクトに10プロットを設定し、全種を対象に植生調査を行った。これらのデータを基に、防鹿柵の設置が種多様性、開花、各種の存否に与える影響を検証した。
結果、絶滅危惧種約20種を含む約150種が記録された。絶滅危惧種の種数、開花種数、開花数および希少性指数はいずれも柵内で柵外より高かった一方で、低頻度種数は柵内外での違いが認められなかった。また、絶滅危惧種における各種の存否や開花数において防鹿柵による保全効果が検出された種は数種であった。本成果は、防鹿柵の設置が亜高山帯の植物種多様性および絶滅危惧植物の保全に有効である一方、低頻度で分布する種の保全には限界があることを示唆している。