| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-300 (Poster presentation)
農業従事者の減少および高齢化等に伴う耕作放棄は、農地の生物多様性の衰退をもたらす第二の危機として注目されている。特に伝統的農業・管理によって維持されてきた日本の里山において、その影響は大きいと考えられる。国内における耕作放棄が生物多様性にもたらす影響は不明な点が多かったが、近年行われたメタ解析により、1) 多くの生物群に対して耕作放棄は負の影響をもたらすこと、2) その影響の度合いは気候や景観、さらに土壌水分条件などの環境要因によって大きく変化しうることが明らかにされている(Koshida & Katayama 2018 Conserv. Biol.)。一方、調査対象となる分類群のバイアスも指摘されており、特に節足動物類は天敵あるいは害虫として重要かつ普遍的な存在であるにも関わらず、研究事例は少ない。耕作放棄が生物多様性に及ぼす影響を理解する上でさらなる調査が必要と考えられる。
本研究では環境指標性が高く、さらに農地においても作物害虫の天敵として重要な役割を果たすクモ類を対象に耕作放棄が及ぼす影響を明らかにした。先行研究により、耕作放棄及び、その後の植生遷移や土壌水分条件といった局所要因がクモ類の個体数や種多様性に影響を及ぼす影響は明らかにされているが(Baba et al. 2019 Ecol. Eng.)、景観レベルでの耕作放棄地が及ぼす影響は明らかにされていない。また、谷津と平野ではクモ類の種プールも大きく異なるため、地形の違いも耕作放棄の影響を改変する可能性がある。こうした景観レベルの耕作放棄の影響とその状況依存性を明らかにするため、本研究は茨城県と千葉県において周囲の耕作放棄の進行度合いと地形(平野・谷津)が異なる25地域を対象に農地周辺の草地でクモ類の多様性を調査し、それに対する地形と耕作放棄地率、さらにその交互作用を解析することによって、景観レベルでの耕作放棄がどのようにクモの局所群集に影響を及ぼすのかを明らかにした。この解析結果について報告する。