| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-306 (Poster presentation)
捕食者の示す生態的な特性のうち、餌資源への特異性と他種捕食者との競合における強さは捕食者の多様性を大きく左右する。特異性が高ければ競合が回避され多種共存が成立する一方、特異性が低ければ競合に有利な種が優占すると予想される。昆虫では、寄主の種数を圧倒的に上回る種数の捕食寄生者がニッチを共有しつつ共存している例が多くみられるため、寄生蜂間の競合と寄主特異性がどのように寄生蜂の種構成を規定しているかに興味がもたれる。捕食寄生蜂が示す寄生戦略は2タイプに分けられ、産卵と同時に寄主の発育を止める「殺傷型」の種は、産卵後も寄主が発育を続ける「飼い殺し型」との資源競争において常に優位になると考えられている。加えて、捕食に近い寄主の利用様式を示す殺傷型は、寄主との生理的な適合性が重要である飼い殺し型に比べ、一般的に寄主範囲が広いとされている。そこで本研究では、マメ科植物3種に潜葉する複数種の鱗翅目ホソガ科幼虫について、寄生蜂の寄生率を国内2カ所で年2-3回調査した。その結果、最も寄生率の高い時期および地域では、たとえ同種の植物種を寄主としていても、ホソガの種が異なると殺傷型と飼い殺し型による寄生率に大きな差が見られた。さらに、ミトコンドリアCOIバーコーディング領域配列を解析したところ、コマユバチ科の飼い殺し型寄生蜂Choeras sp.はマメ科の異なる属を寄主とする4種のLiocrobyla属を利用していることが明らかになった。一方の殺傷型を示すコバチ類には、Choeras sp.に匹敵するほどの広い寄主範囲を示す種は確認されなかった。この結果は、一般的に広食性とされている殺傷型がある程度の寄主特異性を示すために、飼い殺し型にも殺傷型との競合を回避できるニッチが存在していることを示唆している。さらに、ほぼ飼い殺し型のみに利用されていたLiocrobyla属は特有の潜葉跡(マイン)を作ることから、このマインの形状が広食性である殺傷型の寄生を妨げている可能性が考えられる。