| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-308 (Poster presentation)
地球規模での気候変動はさんご礁生態系に大きな影響を及ぼしており、さんご礁生態系復元のための調査・研究がますます重要になっている。近年ミドリイシ属において、交雑種は純粋種に比べて環境応答に優れていることが報告された。しかし、これは人工的に作出された雑種体を用いた結果であり、野外でも同様かを検証するには、野外における雑種体の有無や遺伝子浸透の程度を明らかにする必要がある。そこで本研究では、多種同調産卵が毎年確認され、さらに雑種体と推定される群体がみられる阿嘉島・マジャノハマを調査地域とした。そして、同所的に生息するミドリイシ属サンゴを対象に、(1)系統樹と(2)MIG-seq法によるSNPジェノタイピングから、対象種集団の遺伝的関係を検証した。
調査地域に生息するサボテンミドリイシ、トゲスギミドリイシ、オヤユビミドリイシ、さらに野外で発見された推定雑種および人為的に作成された確定雑種を対象とした。DNA抽出後、ミトコンドリアと核遺伝子の領域について系統樹を作成した。SNPジェノタイピング後、PCoA法を用いて対象種間の遺伝的関係を、またSTRUCTUREにより対象集団の遺伝的構造を推定した。
系統樹では、大きくサボテンとトゲスギの2つのクレードに分かれたが、少数のトゲスギがサボテンのクレードに入っていた。オヤユビはどちらのクレードにも属していた。PCoAおよびSTRUCTUREの結果から、サボテンは他種とは遺伝的に異なるクラスターを形成するが、トゲスギとオヤユビは遺伝的に混在していることが示された。
以上から、多種同調産卵する地域における遺伝子浸透が示唆された。3種の間で遺伝的な混在の程度が異なる理由として、3種における産卵時間のずれが挙げられる。今後、多種同調産卵しない地域集団について同様の解析を行い、多種同調産卵の遺伝子浸透への影響をより明らかにする予定である。