| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-319 (Poster presentation)
ヒガシシマドジョウは東日本の河川や湖沼に生息する日本固有の底生魚である.河川では中流・下流域の砂泥底や砂礫底の緩流を好み,底層の小動物を摂食する.繁殖期は河川内の浅瀬や水田水域に移動して産卵するが,近年は河川改修による河床の粗粒化や水田水域と河川間の連続性の欠如などの影響で生息地が減少している.本種は生息環境の詳細が不明であり,保全対策は確立されておらず,自然繁殖を促す保全のためには年間を通した微生息環境の把握が重要となる.そこで本研究では多摩川水系の平井川下流域にてヒガシシマドジョウの季節ごとの生息環境および餌生物を調査した.
本種は石積みや蛇籠の護岸付近の砂泥(粒径0.2~2 mm)や小礫(2~16 mm)で構成された水深が浅い緩流域(水深40 cm以下,流速30 cm以下)を主に利用し,成魚(50 mm以上の雌,45 mm以上の雄)に比べ未成魚は流れが遅い環境を利用していた.繁殖期は砂泥底を,冬季は水深が浅い水温が比較的高い場所を利用する傾向もみられた.主にユスリカ科を摂餌し,大型個体はカゲロウ,カワゲラ目の利用が増加した.季節別にみると秋季にブユ科の摂食が減り,トビケラ目が増えた.
利用する水深や流速と季節の関係はみられなかったが,時期によって河川内の利用場所に違いがあり,小規模な生息場所の季節変化があると考えられる.石積みや蛇籠の護岸付近に生息する利点として,これらの河岸法面の間隙は恒常的に流れが遅く,捕食者の回避や増水時の避難場所になり得ることが挙げられる.餌生物については体サイズにより摂餌する生物が異なることから,口径に合う餌資源を利用していると推察される.今後は洪水対策として堰堤で仕切られる河川が増え,本種の生息に適した環境が減少することが予想され,保全のためにはたとえ短い区間でも物理的多様性の維持や創出が重要である.