| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-324 (Poster presentation)
絶滅危惧種保全の成功の是非には、生息地の管理方法の如何が大きく関わっている。更には周囲の景観の影響や生息地間のネットワークも保全策を考える上で重要である。生息地管理に関する研究はこれまで、管理方法や、管理を優先すべき生息地の特定に関するものが主であった。しかし多くの場合、局所個体群動態に強く影響を及ぼす要素は複雑に絡み合っているため、詳細な管理方法の提言には、生息地管理の実施によってその複数の要素が変動するメカニズムを把握することが必要である。本研究は、農地の畔や土手に生息する絶滅危惧種ミヤマシジミを対象に、草刈り頻度が生息地内の複数の要素(共生アリや食草コマツナギ、植生高、土壌条件)を変化させ、本種の局所個体群サイズに影響を及ぼすメカニズムを明らかとした。解析はpiecewiseSEMを用いて行い、要素間の因果関係を推定した。その結果、共生アリ(クロオオアリとクロヤマアリ)密度は、植生高と土壌の硬さ、周囲の立木面積に、食草コマツナギ被度は植生高と土壌水分に影響を受けることが示唆された。また、草刈り頻度は植生高と食草被度に負の影響を及ぼすだけでなく、植生高を介して土壌を硬くし、共生アリの密度を高める効果が示唆された。上記のメカニズムにより、5~10月の間に2回草刈りを行うことが本種の局所個体群サイズを最大化させることが示唆された。更に、共生アリや食草の生息状況に影響を及ぼす土壌条件や周囲の立木面積、生息地間の空間自己相関から、管理を優先すべき生息地を特定した。昨年度の研究では、幼虫期を外した時期の草刈りを行うで局所個体群サイズを最大化させることを明らかとした。したがって今年度の研究結果と合わせると、本研究によって、本種の保全に適した詳細な管理方法をそのメカニズムとともに明らかとし、その管理を優先して実施すべき生息地を特定したことは類を見ず、実現可能性の高い保全策を提言することができた。