| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-326  (Poster presentation)

長野県塩田地域のため池の移行帯における食物網構造
Food web structure of ecotone at a reservoir pond in Shioda District, Nagano Prefecture

*高橋大輔(長野大学)
*Daisuke TAKAHASHI(Nagano Univ.)

近年、ため池の農業水利の役割だけでなく、生物の生息空間の保全などの多面的機能に注目が集まりつつある。長野県上田市塩田地域は、年間降水量が少なく、水田用水のために古くから多くのため池が造成された歴史を持つ。これらのため池は、本地域の里山景観を構成する重要な要素の一つであるが、農業従事者の減少や安全管理上のリスクなどから、本地域におけるため池は年々数を減らしており、里山景観への悪影響が懸念されている。今回、塩田地域のため池の里山景観における生態学的役割の一端を知るために、本地域の代表的なため池の一つである舌喰池の移行帯において、水生動植物および捕食性の陸生節足動物に焦点を当てた食物網構造を炭素・窒素安定同位体比分析により予備的に調べた。2018年6月ならびに2019年8月および10月に生物採集を行い、計23科28種の動植物を得た。安定同位体比の値を用いたクラスター分析により、各月において動物群は主に魚類と水生捕食者から成るグループや陸生捕食者のグループなど2〜4つに大きく分けられ、続いて5〜6のサブグループに分けられた。8月および10月において、水生捕食者、陸生捕食者のトンボ類成虫、陸生捕食者のクモ類ならびに魚類の順で窒素安定同位体比が高い値を示したことから、水生捕食者から最終的に魚類へとつながる食物網構造と陸生捕食者のクモ類へとつながる食物網構造の2つの存在が示唆された。また全ての季節において、水生捕食者と陸生捕食者の両者を含むサブグループが認められた。これらの動物が同じ餌生物を利用するのであれば、水域と陸域という異なる生態系間で複雑な生物間相互作用が生じているのかもしれない。これらの相互作用はため池の多い本地域の里山景観を特徴づける要素である可能性が示唆される。


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