| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-330 (Poster presentation)
日本の多くの湖沼では、水質悪化や地形の改変などにより水生植物の衰退・消失が続いている。長寿命な種子を形成する植物は、地上の植物が消失しても土壌シードバンクからの再生が期待できる。しかし、新たな種子の供給がない限り、土壌シードバンクの密度は時間とともに低下すると考えられている。湖沼において水生植物の消失をもたらしている要因の多くは、解決までに長い時間を要するため、環境改善の取り組みと並行して土壌シードバンクを枯渇させないことを目的とした取り組みを行うことが重要である。
本研究は、霞ヶ浦を対象に、1)新たな種子供給が低下した場合、湖底の土壌シードバンクの密度も時間とともに低下するか、2)局所的・一時的でも植生再生事業は種子密度を増加させるか、という点を検証する研究を行った。
まず、2018年に湖底からサンプリングした土砂中の土壌シードバンク密度を、2004~2006年に同じデザインで行われた実験の結果と比較すると、撒きだした土砂の面積あたりの沈水・浮葉植物の種数は低下していた。合計種子密度は増加していたが、特定の種(アゼナ)の密度を反映したものであり、アゼナを除外すると、密度は低下していた。次に、2002年に植生再生事業が行われた場所の土壌シードバンクを調査した。近年の種子散布を反映していると考えられる「表層」、再生事業直後に散布された種子を蓄積していると考えられる「中層」、新たな種子供給がなかったと考えられる「下層」を比較したところ、中層で個体密度が高く、地上から消失した沈水植物も検出され、再生事業によって再生産された散布体が残存していることが示唆された。現地で中層を露出させるような土壌撹乱を行った結果、シャジクモが被度100%まで繁茂した。このような管理は、シードバンクの枯渇を防ぐことに役立つことが示唆された。