| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-332 (Poster presentation)
日本に生息するスナヤツメは遺伝的に分化した北方種と南方種に分けられることが知られており,両種は同所的に生息する場合でも交雑しないとされている.しかし,両種の形態的な識別は困難であり,アロザイム分析やDNA解析などの手法を用いて同定する必要がある.中部地方には両種が分布するが,その分布の詳細は明らかにされておらず,この地方における両種の生態・生活史に関する基礎的知見が不足しているのみならず,生息環境の違いや人為的環境改変によるそれぞれの種に対する影響の違いなど,両種の保全に関する重要な知見も不足している.そこで,本研究では東海地方の静岡県,愛知県,岐阜県およびそれらの県の水系の上流に位置する長野県におけるスナヤツメ2種の分布を調査した. 2006年から2019年に4県111地点397個体のスナヤツメ類を採集し(向井ほか(2011)で報告済みのものを含む),Yamazaki et al. (2003)に従ってマルチプレックスPCRによるmtDNAの判別を行った.その結果,mtDNAから北方種と同定される個体は36地点127個体,南方種と同定される個体は85地点270個体だった.その中で,両種が同所的に採集されたのは10地点(静岡県1地点,岐阜県5地点,長野県4地点)のみであり,両種の分布には明確な偏りがあった.南方種は山地を中心に広く分布し,静岡県では西部に分布していた.一方,北方種は静岡県,岐阜県中西部,長野県北部の3地域に隔離されて分布していた.長野県における北方種の分布は日本海側の水系の比較的高標高な地域(518~737m)だったが,太平洋側の水系では,北方種の分布は標高3~103mの平野部とその周辺に限られており,南方種の分布する太平洋側水系の標高(4~571m)に比べて有意に低かった.