| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-333 (Poster presentation)
生物にとって繁殖イベントは種の安定的な存続において最も重要である。そのため、繁殖生態に関する知見は種の保全・生物資源の維持管理に不可欠の情報と言える。一般的な産卵期の親魚および卵の目視や捕獲調査は多くの場合侵襲的かつ地理的な制約や偽産卵によるミスカウントから結果の偏りが生じやすい。近年、非侵襲的な生物調査手法として環境DNA分析手法が広く利用されるようになり、種の分布推定や環境中の環境DNA濃度に基づく生物量推定の試みがなされている。しかし、多くの場合、環境中の環境DNA濃度は年間を通して一定ではなく、対象生物の産卵期に明らかな増加がみられることが複数の先行研究によって報告されている。この産卵期に関連した環境DNA濃度の増加が産卵行動に起因する可能性が示唆されているものの、単なる個体密度の上昇による効果である可能性が排除できず、産卵期にみられる環境DNA濃度の増加を単に産卵行動が行われた証拠として扱うことはできなかった。そこで本研究では、まず(1)キタノメダカ(Orizias sakaizumii)とミナミメダカ(O. latipes)各1尾のペアを水槽で交雑させ、産卵前後における各種の環境DNAの増加量を検証した。その結果、産卵後に雄の種の環境DNAのみが急激に増加し、雄の放精が環境DNA急増の主要因であることが示された。また、(2)複数尾を使用した交雑実験により、産卵行動の回数と産卵後の環境DNA増加量に有意な関係が見出された。さらに(3)野外調査では、繁殖期にのみ産卵時間帯前後で環境DNAの急増が観察された。本研究により、産卵期にみられる環境DNA濃度の急増を捉えることで、水生生物の産卵行動の検知が可能になることが示唆された。今後、環境DNA分析は繁殖生態を調査するための効果的なツールとなることが期待される。