| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-348 (Poster presentation)
氾濫によって引き起こされる浸水は人間活動にとってリスクとして捉えられる。しかし「水が溜まりやすい空間」は「降雨時に一時的に水を引き受けて流域の浸水害を軽減する機能(洪水抑制)」を持ち、同時にその湿性から「湿地生態系生物の生息地を提供する(生物多様性保全が期待できる)」空間とも言い換えられる。
ただし、その多機能性を具現化するには「どこで一時的に降雨の貯留ができるのか、また、生物が生息地として要求する土地条件は何か」を明らかにする必要がある。そこで滋賀県を対象に諸条件を明らかにし、2機能を備えた場合の流域全体の氾濫の挙動を氾濫水理シミュレーションで示すことを目指した。なお、生息地空間を提供できるかどうかの定量化に関しては、湿地生態系の頂点に位置する希少種「コウノトリ」を指標種として用いた。
対象地は伝統的な治水技術としての「霞堤(かすみてい)」が多く残っている愛知川(淀川水系の一級河川)流域に絞り込んだ。霞堤は不連続に作られた堤防であり、降雨により本川水位が上昇すると開かれた堤防箇所から農地などに遊水する。本川の水位上昇などを軽減することで結果として流域全体で決壊リスクを下げる。構造物ではなくそこは同時に湿地生態系の保全が期待されるので生態系減災(Eco-DRR)の概念とも一致する。
本研究では貯留できる潜在性のあるすべてのエリアを霞堤として機能させるよう地盤高を操作し、氾濫の状況がどのように変化するかをシミュレーションで示した。具体的には本川から水が入りやすくするよう堤防や陸域の地盤高値を変更している。
結果下流の氾濫原で浸水深抑制の効果が見られた。下流部は特に資産が集中し、浸水深に応じて被害額は増大するため、貯留機能を発揮することは下流域の減災に寄与する。この結果は河川区域と陸域の民有地(農地)の連続性を持たせることで流域が恩恵(効果)を受けることを示す一つの例として示せる。