| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-351  (Poster presentation)

絶滅危惧種コガタカワシンジュガイの宿主アメマスへの局所適応に着目した保全策の検討
Local adaptation study of endangered freshwater pearl mussel Margaritifera togakushiensis to its host fish; implication for conservation

*伊藤大雪(北大・環境院), 三浦一輝(北大・環境院), 岸田治(北大・FSC), 根岸淳二郎(北大・EES)
*Daisetsu ITO(Env. Sci., Hokkaido Univ.), Kazuki MIURA(Env. Sci., Hokkaido Univ.), Osamu KISHIDA(FSC, Hokkaido Univ.), Junjiro N. NEGISHI(EES, Hokkaido Univ.)

絶滅が危惧される淡水二枚貝イシガイ目は、幼生が特定の宿主魚種に寄生する複雑な生活史をもつ。寄生の適合性は新規加入個体数に影響するため保全上重要である。これまでに、幼生の寄生と宿主魚の抵抗性が敵対的な共進化関係にあること、局所集団によって寄生の適合性が異なること(局所適応)が明らかにされつつある。しかし、イシガイ目全体で一貫した傾向は示されていないため、種や個体群ごとに情報を集積することが有効な保全につながる。本研究では、北海道東部に分布する絶滅危惧種コガタカワシンジュガイ(以下、コガタ)と、流域ごとに独立した繁殖集団をもつ宿主魚アメマスを人工的に寄生させる実験を行い、寄生幼生数を複数の宿主系統間で比較することで、両種に局所適応があるかを調べた。ここでは、同所の宿主系統で寄生数が多い場合を寄生者の、異所で多い場合を宿主の局所適応とそれぞれ定義する。
 アメマスは2017年の秋に北海道東部の3流域から親魚を採集、人工授精し作出した当歳魚を使用した。コガタは2018年5月に上記3流域のうち1流域から採集した。すなわち、コガタ1系統× アメマス3系統(同所1系統、異所2系統)からなる計3つの組み合わせを設け、寄生幼生数を比較した。人工授精および飼育の一部は標津サーモン科学館で、実験は2018年5月から北海道大学苫小牧研究林でそれぞれ実施した。
 寄生幼生数をアメマス系統間で比較した結果、局所適応を支持する傾向は確認されず、コガタとアメマスの宿主-寄生者関係において寄生幼生数を規定する要因として両者の共進化プロセスが果たす役割は小さい可能性が示唆された。同様の結果が他の生息地由来の組み合わせでも得られた場合、次の二点が示される。第一に、同所的な宿主個体群が減少しても、異水系から自然移入があれば、それが代替宿主として機能しうる。第二に、保全策の最終手段として人工繁殖が必要な際にも異水系由来の宿主が利用可能である。


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