| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-357 (Poster presentation)
鳥類の多くの種では,親鳥の抱卵により胚の発生が進むので,抱卵行動のパターンが胚の成長や孵化の成否を左右することになる.本研究で対象としたコウノトリは,一夫一妻制でオスとメスが協力して繁殖し抱卵も交代で行うので,抱卵中はほぼ常時どちらかの親鳥が巣にいるが,オスメスが交代するときや転卵あるいは卵の配置を変えたり巣繕いするときには抱卵が中断する.このような行動は定性的には知られているが,野外で繁殖するコウノトリの初卵産出以降の抱卵行動の推移を定量的に明らかにした研究はない.本研究では,産卵から孵化までの抱卵率の基本的なパターンを明らかにし,続いて気象要因が抱卵率に及ぼす影響に着目した.
調査対象は,豊岡盆地に再導入された個体で形成された繁殖ペアである.このペアの2013年から2018年までの6年間の繁殖行動を映像に記録し,雌雄の在巣時間および抱卵時間を日毎に集計した.次に,抱卵率に影響を及ぼし得る要因として,日最高気温,日最低気温,日平均気温,日降水量,日日照時間を実測あるいは気象データから入手し,抱卵時間との関係を解析した.
2013年から2017年前の5繁殖期は第1クラッチの繁殖記録であり,初卵産出日が2月19日から3月19日の間であった.オスとメスを合わせた抱卵率は完全抱卵から最初のヒナの孵化までの間90%以上を保っていた.一方,第2クラッチの繁殖記録である2018年は初卵産出日が4月26日で,この年のみ抱卵率が90%を下回る日が認められた.2018年のデータでは,オスとメスを合わせた抱卵率と日最高気温が負の相関を示し,この年の完全抱卵期間の日最高気温は15℃から33℃の間であった.気温が抱卵率に影響を与える要因として,外敵への対処や熱代謝の促進など親鳥の生態学的要因と,ガス交換の促進など卵の生理学的要因が考えられた.