| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-363 (Poster presentation)
御蔵島の陸域生態系のレジームシフトを誘因する2つの人為要因
岡 奈理子(山階鳥類研究所)
海洋島や大陸から長く孤絶した島嶼に暮らす生物は,侵略的外来種の移入や環境の物理的改変のような人為的かく乱に対抗できる形質を持たないものが多く,個体群の減少や絶滅の脅威にさらされやすい.
海洋島の一つ,伊豆諸島の御蔵島は,東アジアの固有繁殖海鳥オオミズナギドリの世界最大級の繁殖島として,また世界的希少種ミクラミヤマクワガタの極限生息地としても知られてきた.
175万~350万羽(1978年調査)いたオオミズナギドリの繁殖数は今世紀に急減し,2016年には12万羽になった.これにより海洋からの栄養塩の陸上げ機能が大幅に失われて,生態系の物質循環の量的,質的変化がもたらされた.
オオミズナギドリの激減の主因の一つは,外来肉食哺乳類であるイエネコによる捕食圧である.これは1990年代以降に野外で増加したイエネコに対する抑制管理が機能しなかったことによる.従来,限定的ではあったが行われていた駆除から,2005年以降,TNR(trap・neuter・return)(ワナで捕獲し不妊去勢して野外に放獣)へ転換され,一部は島外搬出もされるが,山岳島で効果的な捕獲が困難であることと,生体捕獲が必須なこうした限定的手法が,繁殖力の高いイエネコの数の減少と生息地からの排除に全く効かったことによる.
もう一つ1980年代初めから1990年代末にかけて島の斜面を縫うように建設された基幹道路と,夜間照明がオオミズナギドリの死因となった.道路の擁壁を覆う金網と,道路や家屋,桟橋の照明への誘因による死亡である.非飛翔性のミクラミヤマクワガタでも基幹道路が大きな死亡圧になり,轢死,熱死,側溝への落下死,イエネコによる捕食などで,分布域の分断と生息数の減少が起こっている.
このように,捕食性外来種の移入と人工物の2要因がオオミズナギドリのような鍵種を激減させることで,生態系のレジームシフトが誘因されている.