| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-369  (Poster presentation)

福島第一原発事故避難指示区域内におけるサギ類による採食場所利用の減少
Declining herons and egrets foraging in the evacuation zone of the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant accident

*熊田那央(国立環境研究所), 深澤圭太(国立環境研究所), 三島啓雄(立正大学), 吉岡明良(国立環境研究所)
*Nao KUMADA(NIES), Keita FUKASAWA(NIES), Yoshio MISHIMA(Rissho Univ.), Akira YOSHIOKA(NIES)

2011年の福島第一原子力発電所の事故に伴い、福島県東部の一部地域が避難指示区域に指定された。区域内では水田の耕作停止により水環境を利用する生物が大きな影響を受けると考えられたが、広域にわたる生物の個体密度分布を把握するのには多大な労力を要する。そこで、水田環境の環境指標となりうるサギ類を対象に、車載カメラと発見率が距離によって減少することを考慮したDistance sampling法を用いて効率的に避難指示区域内外の出現個体密度の違いを明らかにした。
2014年から2016年にアクションカメラ(Garmin社VIRB)を設置した自動車で対象地域内の道路上を走行して動画を撮影し、撮影されたサギ類の位置と道路からの距離を記録した。なお、事前に車載カメラと同時に上空からドローンでサギ類を撮影し、車載カメラでの定位誤差がDistance sampling法に利用できる程度であることを確認した。Distance sampling法によってサギ類の個体数密度とそれに対する環境要因(3次メッシュ内水域面積の平方根)の効果を推定し、対象地域の水田全体の個体数を推定した。推定対象の水田は2006年から2015年までの衛星画像判読により特定し、原発事故に伴い放棄されたものも含まれる。
車載カメラによる撮影を行った総距離は7032 km(帰還困難 877 km, 居住制限 1902 km, 解除準備 896 km, 区域外3356 km)で、確認されたサギ類は56羽であった。サギ類が観察されたのは全て区域外であったことから、モデルの過適合を防ぐために事前分布にはコーシー分布を用いた。作成したモデルから求めた個体数密度の中央値と95%信用区間は帰還困難区域では0.30(0.03 – 1.73)/㎢、居住制限区域では0.05(0.01 – 0.70)/㎢、解除準備区域では0.12(0.01 – 0.97)/㎢、指示区域外では13.61(8.12 –24.99)/㎢と予測された。区域内の個体数密度の推定値は事前分布による正則化の影響を受けるため、過大評価の可能性がある。水田の耕作停止がサギ類に大きな影響を与えていることが示唆された。


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