| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-375 (Poster presentation)
近年、人獣共通感染症が世界的な驚異となっている。国内でも西日本を中心にマダニ媒介感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の患者数が増加している。SFTSウイルス(SFTSV)は様々な野生動物とマダニの間で維持されていると考えられる。本研究では、個体数増加および分布拡大するニホンジカに着目し、その抗SFTSV抗体保有状況から野外におけるSFTSVの拡大状況やニホンジカの感染に影響を及ぼす要因を明らかにする。
山口県西部において2010~2016年に捕獲されたニホンジカ591個体について血液サンプルを採取し、ELISA法により抗体保有を分析した。この内、捕獲個体の性別、体重、捕獲場所(5kmメッシュ)の情報が得られた348個体についてGLMMによる解析を行った。
抗体検査の結果、全体で43.7%(258/591)と高い抗体保有率が明らかとなった。また、GLMMの結果から、体重が重く、シカ密度が高く、宅地等面積が少ない場所で捕獲されたメスほど抗体保有率が高かった。このことから、SFTSが蔓延する地域のニホンジカは成長するにつれ、高い確率でSFTSに感染することが明らかになった。また、シカの増加がマダニの個体数増加やウイルスの増幅・拡散など何らかのメカニズムを介してSFTSの感染を助長していると考えられた。オスに比べてメスの方が抗体保有率が高かったのは、メスが群れを形成することで局所的な密度が増加する影響や、オスに比べて長寿命のため感染の機会が多い可能性が考えられた。また、都市的土地利用ではマダニおよびシカを含めたホスト動物が減るなどの影響により、ウイルスが維持されにくい環境となることが示唆された。