| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-376  (Poster presentation)

シカの耕作地における採食指標としての糞窒素安定同位体比の年変動
Inter-annual variation of fecal nitrogen stable isotope values, as an indicator of herbivory by deer at cultivated lands

*原口岳(総合地球環境学研究所), 幸田良介(大阪環農水研・多様性), 石塚譲(大阪環農水研・多様性), 陀安一郎(総合地球環境学研究所)
*Takashi F HARAGUCHI(RIHN), Ryosuke KODA(Biodiv. C. Osaka), Yuzuru ISHIZUKA(Biodiv. C. Osaka), Ichiro TAYASU(RIHN)

近年のシカによる農林業被害の深刻化を承けて、環境省や農林水産省によって平成25年に「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」が掲げられた。捕獲強化によって期待する効果は個体数の削減による被害抑制であるものの、同時にシカの移動や行動変容などの副効果をもたらす可能性があり、総体としての農林業被害低減への寄与は不明である。そこで、鳥獣捕獲強化対策の効果を多面的に評価することを目的として、大阪府北摂地域のシカの生息密度 (頭/km2) と、農作物利用度の指標としての糞の窒素安定同位体比を捕獲強化前後で比較した。
調査地に位置する箕面国有林では過去40年以上シカの捕獲が全く行われていなかったが、2014年度以降急激に捕獲が強化された。そこで、2014年度、2015年度、2018年度の冬季 (12月~2月) に採取された糞を窒素安定同位体比の分析に供した。2014年度を捕獲強化前、2015年度と2018年度を捕獲強化後と定義し、採取地点周辺の耕作地、人工林、草地、裸地の面積率および捕獲強化前後のいずれに採取されたかを説明変数として、計測した周辺土地利用の範囲が異なる、複数のGLMMによる解析をおこなった。
糞採集地点の周辺0.35 kmから1.4 kmの範囲の土地利用との関係の解析では、周辺の耕作地面積率のみが説明変数として選択され、周辺の耕作地面積率が高いほど糞の窒素同位体比が高いことが示された。また、捕獲が強化される以前と比較すると、捕獲強化後には窒素同位体比が低い傾向にあった。しかし、糞窒素同位体比には、捕獲強化の前後以上に年変動が強く作用していた。この結果から、過去数年の捕獲強化はシカの農作物利用度には影響をおよぼさなかったと考えられる。いっぽう、共同研究者による過去の発表においても示されたように、主に山間部で捕獲が強化されたために、里域のシカ生息密度には大きな変化が見られなかった。以上のことから、捕獲強化が農作物利用度・生息密度の両面で必ずしも農作物の被害抑制に寄与していないことが示唆された。


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