| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-381 (Poster presentation)
水俣湾は人為的な水銀による環境汚染が引き起こされた場所として世界的に有名であるが、仕切り網による汚染生物の囲い込みと取り上げ、底泥の浚渫や埋め立てなどの施策により、魚類の水銀濃度も国の暫定基準を下回ったことから1997年には熊本県から安全宣言がなされ、漁業も再開されている。しかしながら基準以下ではあっても、未だ比較的高い水銀を蓄積した個体もいる。魚類に蓄積される水銀は基本的には餌に由来する。水柱の水銀が最初に基礎生産者に濃縮され、それを食べる餌生物を介して魚類へと取り込まれていくため、一般的に栄養段階が高い種ほど濃度は高い。しかし沿岸域の場合、食物連鎖の起点となる基礎生産は表層植物プランクトン以外に底生微細藻類も重要な役割を担うことがある。したがって、沿岸魚類の水銀濃度は栄養段階だけでなく、表層系と底層系の食物源の違いにも影響を受けているが、栄養段階と食物源のどちらがより影響を与えているかは十分に検討されていない。本研究では水俣湾で採取された魚類の総水銀と炭素・窒素安定同位体分析を行い、食物源、および栄養段階の違いのどちらが水銀蓄積に重要か検証した。安定同位体の結果から、9種類の魚類について、δ13Cが相対的に低く浮遊性植物プランクトンへの依存度が高い魚種とδ13Cが高く底生微細藻類への依存度が高い2つの魚群に大別された。これら魚群間の水銀濃度の違いについて、栄養段階の指標となるδ15Nを共変量、魚種をランダム効果として取り入れた線形混合モデルによる解析を行った。その結果、水銀濃度はどちらの魚群でもδ15Nと共に有意に上昇したが、その傾きに魚群間で有意な違いは認められず、底生微細藻類への依存度が高い魚群で有意に水銀濃度が高かった。効果量の解析からδ15Nよりも魚群の違いによる効果の方が大きく、栄養段階に伴う生物濃縮よりも食物源そのものが水銀蓄積に相対的に大きな影響を与えていることが明らかになった。