| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-392 (Poster presentation)
不確実性の高い水産資源の管理には、仮説に基づく管理措置の実施を通じて情報を収集しながら、その結果をフィードバックして管理措置の改定を繰り返す「順応的管理」が有効であるとされる。しかし順応的管理の概念は誤解・誤用されることも多く、しばしば混乱のもととなっている。北西太平洋公海域に位置する天皇海山海域では、国際漁業管理機関である北太平洋漁業委員会の管理の下で底魚漁業が実施されているが、主要漁獲対象種であるクサカリツボダイは加入量の低迷による不漁が続いており、それに伴うキンメダイの漁獲圧増大が懸念されている。これらの漁業資源は資源評価に基づく管理が必要であるが、クサカリツボダイ資源量の激しい変動や、それによる漁業活動の変化、詳細データの不足などに由来する不確実性があり、定量的な資源評価が困難である。そのため、北太平洋漁業委員会によって「順応的管理」を謳う一連の管理措置が2019年に導入された。これは、クサカリツボダイの加入量モニタリング調査に基づく漁獲枠・操業区域の変更と、キンメダイ若齢魚保護のための漁具規制を組み合わせた措置である。不確実性の高い状況の下で、国内外の漁業者・行政官・科学者間の合意を得るために順応的管理という用語は有効に機能したと考えられ、国際的な漁業管理における先駆的な例として評価できる。一方で、この管理措置が順応的管理の満たすべき条件に合致しているかどうか、先行研究で提唱されている指針に基づき検討したところ、本措置には作業仮説、管理目標、評価基準、改定方法といった重要な構成要素が明示的に設定されていないという問題点が明らかになった。順応的管理として有効に機能する枠組みを作るためには、これらの点の改善が必要である。