| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-PC-394  (Poster presentation)

久々子湖における地域知を応用したなぎさの再生
Coastal habitat restoration using local knowledge in the Kugushiko Lagoon

*宮本康(福井県), 金谷弦(国環研), 多留聖典(東邦大学), 吉田丈人(地球研, 東京大学)
*Yasushi MIYAMOTO(Fukui Pref.), Gen KANAYA(NIES), Masanori TARU(Toho Univ.), Takehito YOSHIDA(RIHN, Tokyo Univ.)

自然のさまざまな恵みを享受しつつ災いを避けるため、伝統的グリーンインフラとも言える、多くのインフラや土地利用の知恵がそれぞれの地域で使われてきた。福井県の久々子湖では、こうした地域知を利用した漁場の再生が漁業者の手で進められている。本発表では、①本湖における地域知を利用した漁場再生の実態とその効果に関する調査の結果と、②この取り組みを今後の自然再生に活かすための取り組みを報告する。久々子湖では、流入河川が洪水時に土砂を運ぶはたらきが、護岸整備で失われたシジミ漁場(湖岸のなぎさ)の再生に利用されている。聞き取りの結果、この方法は2つの地域知を利用していることが判明した。1つめは、「細砂が堆積する流入河川の河口にシジミが沸く」という伝承である。この伝承を実現化するために、「河口を付け替えることで土砂の堆積域をコントロールする」という江戸時代から続く新田開発のための地域知が利用されている。この地域知を利用した漁場再生の効果を検証するために野外調査を行った結果、地域知を利用して再生したなぎさでは、現代の覆砂工法で再生したなぎさに較べて細砂の堆積率が高く、ヤマトシジミの生息密度が高いことが明らかになった。さらに、この再生なぎさではシジミの密度だけでなく、他の多くの底生生物の密度が高いことも判明した。この調査結果は、地域知を利用した漁場再生の有効性を示唆している。しかし、今日の土地利用の状況では湖内他所への応用が著しく困難である。一方で、流入河川の河道に堆積した土砂は防災の目的で浚渫されるが、浚渫土砂の処分が行政の負担になっている。これらの現状を考慮し、流入河川の浚渫土砂を湖岸のなぎさ再生に活用することで「防災しながら自然再生する」ことを漁業者を含む湖ユーザーと河川管理者に提案した。この提案は受け入れられ、三方五湖自然再生協議会が作成する自然護岸再生の手引きに採用されることとなった。


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