| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-PC-400 (Poster presentation)
人間活動の歴史が古い中国地方にはこの地域の極相林である常緑広葉樹林が少なく、伐採や火入れの影響を受けた二次林が多い。しかし、古くから保護の対象とされてきた神社の森(社叢)には常緑広葉樹林の断片が残存している場合がある。このような森林の多くは国指定の天然記念物として保護されており、社叢として全国で18件指定されているが、そのうち3件が鳥取県内にある。それは、鳥取市内の倉田八幡宮と大見宿禰命神社および倉吉市内の波波伎神社の社叢である。ここでは、昭和9年(1934年)に国の天然記念物に指定された倉田八幡宮の樹木医学的・生態学的調査結果に基づいて原生的な常緑広葉樹林の構造と更新および保全について報告する。調査項目は、樹種、胸高直径、樹高、樹齢および根元位置である。天然記念物に指定された当時の調査と同様に、社叢全域に分布する胸高直径30 cm以上のすべての樹木について84年後の2018年に毎木調査を行った。
倉田八幡宮の社叢は、常緑広葉樹と落葉広葉樹の大径木が優占する約1 haのよく発達した森林であり、林冠はほぼ閉鎖している。天然記念物に指定された当時はタブノキの多い森林であったが、現在ではタブノキが減少し、落葉広葉樹とくにムクノキの優占度が高い。亜高木層にはヤブツバキが多いが、ヤブニッケイ、シロダモ、イヌマキなどの常緑広葉樹も混生する。樹齢調査により、本社叢に生育する樹木の樹齢は少なくとも数百年に達すると推測されたが、過去の攪乱によって断続的に更新が起こってきたと推察された。本社叢は周辺から孤立し、タブノキやスダジイなどの本来の極相種の後継樹が少ないので、部分的に侵入しているタケ類やハランなど更新の妨げになるものを除去し、長期的に原生的な自然を維持していくことが重要であると考えられた。