| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-04 (Poster presentation)
1.背景・目的
昨年度よりカワニナを第一宿主とする、トビ棘口吸虫について研究を行ってきた。昨年度の研究では、トビ棘口吸虫は群体でのみ正の光走性を持ち、それを持つために群体化すると考えた。しかし、今年度行った観察と実験から、トビ棘口吸虫セルカリアは単体の状態でも正の光走性を持つことが分かった。そこで、トビ棘口吸虫セルカリアはなぜ群体化するのか、またその他の生態、形態についても調査・研究を行った。
2.泳ぐ速さの比較
トビ棘口吸虫セルカリアの単体はカワニナから自然に排出されることがあると分かった。この単体を用いて実験を行ったところ、単体には正の光走性があると分かり、トビ棘口吸虫セルカリアは正の光走性を持つために群体化しているわけではないとわかった。そこで、トビ棘口吸虫セルカリアは群体化することで泳ぐ速さが速くなると仮説を立て、群体と自然に排出された単体で泳ぐ速さを比較した。その結果、泳ぐ速さは群体>自然状態の単体となった。この結果より、上記の仮説は立証された。
3.刺激に対する反射の発見
観察より、トビ棘口吸虫セルカリアが水流による刺激を受けると、強光下では動かず、弱光下では動く状態になることを発見した。この事象の利点について、「カワニナから排出され、水面に向かって泳ぐ際、中層域に留まりやすくなり、魚に食まれやすくなる。」と言う仮説を立てた。また、この仮説はトビ棘口吸虫セルカリアが9月以降排出されなくなったことに起因して検証を行えていない。よってトビ棘口吸虫の生活環には季節感があると考え、昨年5月から今年2月までの感染率を、カワニナを解剖して調べた。結果、トビ棘口吸虫セルカリアは9月~1月の間は排出されない上感染率自体が非常に低く、また、排出は2月からされ始めると分かった。