| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-06 (Poster presentation)
体色変化には自らを目立たせる婚姻色と目立たなくする保護色の相反する2つの機能がある。そこで,相反する体色変化がそれぞれどのように機能しているのか,色素の分布,背景色との関係,変化の速効性などに着目して研究を行った。観察・実験には,雄が婚姻色を呈するタイリクバラタナゴを使用した。まず,雌雄の魚体を7つの部位に分け,色素の分布について調べた。鱗を採取できる3つの部位では鱗を,鱗が取れない4つの部位では魚体を顕微鏡や実体顕微鏡で観察し,色素胞の種類や分布を調べた。赤色素胞は雄だけに,黄色素胞は雌だけに観察でき,また4種類の色素胞の割合は雌雄で異なった。また雄では虹彩と全てのひれに赤い色素が,雌では虹彩と背びれに黒い色素が見られ,雌雄の体色にさまざまな違いがあることが分かった。次に7色の背景を用いて明色から暗色へ,あるいは暗色から明色へ背景を変え,体色の変化を観察した。体色は濃さによって5段階を定め,変化が完了するまでの時間を計った。その結果,明色から暗色へ変化させた方が時間がかかり,さらに雌の方が時間を要することが分かった。以上の結果から,婚姻色を呈した雄は保護色としての機能は低下している,また体色変化にかかる時間が異なったのは,それぞれの背景での目立ちやすさや色素胞の凝集と拡散の起こりやすさが関係していると考察した。ところで,実験中雄を赤い背景に入れた時にだけ,横転するという興味深い行動をとった。特に婚姻色が濃く,活発に産卵行動を行う雄に見られたため,雄特有の繁殖に関わる反応であると仮説を立て,その解明に向けて実験を行っている。