| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-12  (Poster presentation)

オオヒメグモの釣り糸式立体網を改変するマダラコブクモヒメバチの造網行動操作
Behavioral manipulation by Zatypota albicoxa (Hymenoptera, Ichneumonidae) altering gumfoot-webs of the house spiders

*高橋尚樹(山形県立酒田東高校), 高須賀圭三(慶應義塾大学), 冨田勝(慶應義塾大学)
*Naoki TAKAHASHI(sakatahigashi  high school), Keizo TAKASUKA(keio university), Masaru TOMITA(keio university)

クモヒメバチというクモのみに外部寄生する寄生蜂が存在し、世界から270種以上が記録されている。生態未知の種がほとんどであるが、わかっている種の中には蛹化する直前(寄生終期)に寄主クモの行動を化学的に改変し、それまで張らせていた通常の捕虫網から、形状が異なる網を張らせる種が報告されている。これは造網行動操作(syn. 網操作)と呼ばれる寄主操作の一種で、できあがった特殊な網(操作網)により、クモが不在となる蛹期において、ハチは通常網で過ごすよりも生存しやすくなると考えられている。操作の様式はヒメバチ-クモ系ごとに異なり、網操作のメカニズムや進化傾向を解き明かすためには、個々の事例を詳細に明らかにすることが重要である。
本研究では、不規則な立体的迷網から下方に無数の釣り糸を配して徘徊性昆虫を捕食するオオヒメグモと、このクモに寄生し網操作を行っていると見られるマダラコブクモヒメバチの系に着目し、操作様式を詳しく調べた。採集した被寄生クモを同じ規格に揃えた網台で飼育し、網を張らせ、網の形状を毎日撮影することで網の変化を追った。
その結果、操作の起こる前日までは平均で50本前後の釣り糸が観測された一方で、操作後(クモが殺された日)では34.3本に減っており(n=44)、操作2-4日前と操作後の間に統計的に有意差があった(前日とは差なし)。操作時の一連の動画撮影にも一例成功し、クモが上方から複数の釣り糸をまとめて除去している行動が確認されたほか、迷網の内側を往復して強化しているような動きも見られた。釣り糸を減らすことは、蛹期に徘徊性昆虫がぶつかって網を支える糸が破壊されるリスクを軽減する効果があると考えられる。
今後の課題として、未寄生クモの釣り糸と操作によって本数の減った糸の直径を比べて強化がされているかどうかと、未寄生クモの造網、改築、増築、脱皮などに見られる行動に、操作時と同じ行動が存在するかを調べていく。


日本生態学会