| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-15 (Poster presentation)
ワカウラツボは,殻長約5 mmの汽水性巻貝である。干潟の泥に埋もれた転石や朽木の下面,およびイソテッポウエビの巣穴のような貧酸素環境に棲息する。1933年に和歌山県和歌浦で発見されたことにより,その名前がついた。県外では,1987年に有明海,1989年に三河湾で発見されたが,本種がはじめて発見された和歌山県では,内湾干潟の水質汚染の影響により,1954~1999年にはまったくみられなくなり,『幻の貝』とよばれるようになった。1999年以降和歌山県では,和歌浦,広川町(有田郡)のみで限定的に確認されるにとどまっており,和歌山県レッドデータブック絶滅危惧I類に指定されている。しかし近年,和歌山県の干潟の環境は改善してきている。また,県外でも本種の存在が確認されてきている。そこで本研究では,現在の和歌浦,広川町におけるワカウラツボの分布,および和歌山県内でこれまで存在が報告されていない上記2地点以外のワカウラツボの分布について調査した。調査は2014~2019年に,和歌山県紀北~紀南地方の汽水域干潟18地点において,泥に半分以上埋もれた直径約20 cmの石を裏返し,ワカウラツボを探し,一部を標本にした。同定は,和歌山県立自然博物館の協力をいただきながら正確に行った。調査の結果,和歌浦で120個体以上,広川町で2個体のワカウラツボの分布を確認した。さらに,上記2地点よりも南部に位置し,過去に分布の報告がない新床町(田辺市)でも2個体の存在を確認した。また,和歌浦湾にそそぐ紀三井寺川において,河口に近い地点では本種の成貝のみ20個体,その地点より300 m上流の地点では幼貝のみ約100個体を確認した。なお,この2地点間ではワカウラツボを確認することはできなかった。この分布の偏りを生じさせた要因については調査中である。