| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-17 (Poster presentation)
準絶滅危惧種のヒダサンショウウオは,渓流の石の裏側に卵嚢を産み(単独産卵),観察が困難であるため産卵行動を調べた例はない.そこで,著者は,独自に産卵水槽を開発し産卵行動をビデオ撮影し解析した.その結果,1)メスのみで産卵できずオスがメスの腹を足で押しながら卵嚢を引き出すことや,2)オスが卵嚢に巻きつき受精すること,複数のオスがいる状況では,3)オスは産卵直前・産卵時に活動がピークになるのに対し,4)メスは産卵後長時間に渡り卵嚢と接触するなど,オスとメスで行動パターンが顕著に異なることが明らかとなり,単独産卵については知ることができた.しかしながら,野外での産卵状況は,未だ明らかになっていない.そこで,2019年は,2017年に野外集団で発見された砂利の中に多数の卵嚢が見つかる産卵(集団産卵)に着目し,このような産卵が再度見られるのか,また他の集団でも見られるのかを明らかにするため,岐阜県の二つの野生集団(A,B)で産卵状況の観察を行った.その結果,A集団では産卵は観察されなかった.B集団では単独産卵を2ヶ所,砂利の中に産卵直前の多数の成体(オス25匹,メス7匹)が凝集しているのを1ヶ所で初めて見つけた.単独産卵は水が常に流れ込む大きな石の下であったのに対し,成体の凝集は川上のなだらかな地形の深さ16センチの浅い砂利の中で,伏流水が流れ込む環境であった.今回の発表では,2020年の観察結果および産卵場所の環境測定の結果を報告する.集団産卵は興味深く,砂利の中での産卵と石の裏側への産卵の使い分け条件とそれに伴う産卵行動の差異,集団産卵の適応的意義は新たな課題となった.