| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-27  (Poster presentation)

瀬戸内海の魚類に寄生する寄生虫相の解明
Research of parasite fauna of fishes in Seto Inland Sea

*西尾彩里, 井上愛菜, 瓦田優香(白陵中学校・高等学校)
*Ayari NISHIO, Aina INOUE, Yuka KAWARADA(Hakuryo High School)

海産魚には,扁形動物門や節足動物門をはじめとした多くの分類群の動物が寄生している。海産魚の寄生虫相を解明することは,種の保存だけでなく新興感染症の天然水産資源集団への侵入・定着の予防(Yoshinaga, 2017)につながる。しかし,瀬戸内海の寄生虫相の研究は1930年代に山口左仲博士によって行われただけであり,検査魚種も有用魚種に限られている。そのため,検査されていない魚種が多く,既知種についても塩基配列の情報はほとんどない。また,2000年以降ではメバルやウミタナゴ属魚類のように種が分けられた魚類もあり,これらは分類学的には新宿主として再記載が必要である。そこで本研究では,形態学的な種同定と特定の塩基配列を解析した分子系統解析を通して寄生虫相の解明を行う。
2018年12月から2020年1月にかけて,兵庫県南部を中心に沿岸での釣りや市場での購入により魚類を採集し,解剖により寄生虫を摘出した。採集した寄生虫は,分子系統解析及び染色標本の作製による形態観察を行った。また,協力者から提供してもらった他の地域のサンプルも利用した。
その結果,30魚種から寄生虫を採集し,分子系統解析と形態観察から,4種の単生類を種同定することができた。そのうち1種はマタナゴの鰓から採集したMicrocotyle属単生類である。マタナゴは,2008年に新たに分類されたウミタナゴ複合種群2種2亜種の1種であり, Microcotyle tanagoとM.ditrematisの2種の寄生が報告されている。
本研究でマタナゴから得られた本属単生類は,計数形質や生殖孔の形が記載と一致したことから,M.tanagoであると判断した。このことから,マタナゴはM.tanagoの新宿主であることが分かった。今後は,収集した標本の種同定と同時に,ウミタナゴ複合種群2種2亜種のMicrocotyle属単生類を検査していきたい。


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