| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-28 (Poster presentation)
1.動機と目的
クモの糸に関する先行研究の多くは微視的構造や組成を人間生活に活用する内容のもので、基礎研究はあまりなされていない。筆者らは美しさにひかれて毎日クモの糸の観察を続けていたが、基礎研究の先行研究論文で示されている、巣の縦糸には粘球がないとか、逆に縦糸は最初から粘球が付着したケーブルである、補強のために意図的に螺旋状の糸を巻き付ける、等が誤りであることに気づき、正そうと考えた。
2.観察方法と結果
3か月かけてチュウガタシロカネグモ30個体の巣を張るようすを観察し、糸を採取して顕微鏡で観察した。チュウガタシロカネグモは円網を作り、中心部から放射状に張る糸を縦糸、同心円状に張る糸を横糸とよぶ。研究の結果、以下を明らかにした。これらはいずれも先行研究と異なるものである。
・歩行する際に発する糸は半径0.11μmで粘球は付着していない。
・縦糸は半径0.17μmで粘球は付着していない。
・縦糸を張ったあと、Uターンして粘球を付着させた糸を発しながらこの糸の上を歩き、糸を束にしてケーブルを作る。その結果、縦糸は複数の糸からなり粘球が付着する。
・横糸になる糸は半径0.11μmで粘球が一定の間隔で付着する場合(外側から中心部に向かって張る場合で、獲物を捕らえる目的の糸)としない場合(中心部から外側に向かって張る場合で、一時的な巣の補強を目的とする糸)がある。
・糸を脚で巻き取ると螺旋状になる。しばしばこの糸で巣を補修するため、縦糸のケーブルに螺旋状の糸が巻き付く。
3.結論と今後の展望
巣のつくり方に着目すると、先行研究には誤りがあることがわかった。クモは巣糸の役割に応じて、太さや粘球の有無を変えた糸を発する。今後は、他の種のクモでも同様の観察を行い、本考察を裏付ける。