| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-32 (Poster presentation)
本研究対象種のアユは日本国内の内水面漁業において,サケ・マス類,シジミに次ぐ漁獲量を誇り,岐阜県では全国有数規模のアユ漁業が行われてきた。しかし,近年,岐阜県のアユ漁獲量は減少しており,持続的な水産資源管理が必要である。漁獲量減少の一因として,冷水病による被害が挙げられ,ワクチンの開発などが進められてきたが,冷水病菌の河川中の動態が明らかになっていないため,有効な対策は未だ確立されていない。そこで本研究では,対策を講ずべく,最新技術,環境DNA定量解析で2つの大規模河川を包括的,継続的に調査し,得られたデータを基に,アユと冷水病菌の生態分布の解明を試みた。
毎月,長良川・揖斐川7地点で河川水1 Lを採取し(年間延べ約100回),アユと冷水病菌について環境DNA定量解析を行った。環境DNA定量解析の結果,回遊性のアユの生活史と,検出したアユの環境DNA濃度の変化から予測される生活史は一致した。冷水病菌の環境DNA濃度と水温には強い負の相関がみられ,河川中の冷水病菌の増減は,水温に強く依存していることが示唆された。この結果をもとにアユの保菌調査を行ったところ,冷水病を発症していない遡上期の多数の稚アユが冷水病菌を保菌しており,冷水病の流行期以前から感染している可能性が示された。このことより,冷水病対策のために稚アユ晩期放流を漁協に提案することを考えている。加えて,比較的狭い範囲で短時間ごとに環境DNAを採取することで,対象生物の移動をより連続的に把握することにつなげることができると考え,調査を行った。11月に産卵場周辺3地点(約120 m間),5月に河口堰の上下2地点(約450 m間)において数時間ごとに実施した環境DNA調査では,著しい環境DNA濃度の変動を得ることができアユの産卵行動と稚アユの遡上の様子を掴むことができた。今回の結果から,調査対象種の分布状況や生物量に加えて,その行動まで把握することが可能であるということが明らかになった。