| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-34 (Poster presentation)
センチュウでは、ヒトと同じように嗅覚順応が知られている。嗅覚順応とは、予め物質のにおいを与えておくと、におい物質への化学走性が低下することである。におい物質を受容し、行動に至るメカニズムの中で、「慣れ」の学習がどのように成立するのかに興味を持ち、私たちはセンチュウの嗅覚順応の研究を始めた。誘引反応の強さは、検定するにおい物質に惹かれたセンチュウ数からコントロール物質に惹かれたセンチュウ数を引き、それを移動した全センチュウ数で割った「化学走性指標」で表した。
センチュウは揮発性物質のイソアミルアルコールに誘引反応を示す。まず、イソアミルアルコールの濃度による誘引反応の違いを調べると、低濃度になるほど誘引されにくく、濃度1.1×10⁻²mol/L以上になると誘引反応の強さに差がなくなった。次に、センチュウの嗅覚順応に要する時間を調べた。予めイソアミルアルコール溶液に60分間浸したセンチュウは、嗅覚順応が生じることが先行研究で知られている。今回の実験では、におい物質とセンチュウを寒天シャーレ上に一緒に置くことで処理し、順応反応を調べた。120分まで30分ごとに処理時間を設けたところ、30分、60分では嗅覚順応せず90分で一度順応し、120分で再び嗅覚順応が解除された。ただし、120分のデータは誤差範囲が広いため再度検証する必要がある。
実験中の操作ミスでコレステロールに誘引反応が見られることが分かった。そこでイソアミルアルコールと同様の実験を行ったところ、イソアミルアルコールより低濃度で同程度の誘引反応が見られた。順応に要する時間は、イソアミルアルコールと同様で、60分まで順応が起こらなかった。コレステロールは水溶性ではなく、寒天に浸透しにくいことから、その誘引反応は嗅覚で引き起こされるのか、味覚で引き起こされるのかわからない。今後、嗅覚や味覚の突然変異体を使うことでコレステロールの受容体を明らかにしていきたい。