| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-46 (Poster presentation)
2018年5月、諫早市喜々津港にて緑藻に覆われたスガイを見つけた。スガイを覆う緑藻はカイゴロモという藻類で、約50年前に新種として発見されてから現在まで、このカイゴロモのスガイ以外の貝への着生報告はない。これをカイゴロモの「基質特異性」という。私たちはこの学説に疑問を持ち、研究をすすめた。私たちはこの喜々津港潮間帯において、カイゴロモらしき「謎の藻類」がウミニナに着生しているのを発見した。この「謎の藻類」の形態的特徴がカイゴロモと一致しているのか北海道大学の報告と比較した。さらに、この藻類がカイゴロモであることをより確実に判定するため、リボソームDNAの解析を行い、塩基配列アラインメントを行った。私たちが発見したウミニナに着生していた「謎の藻類」は、形態的特徴とDNA解析の結果から、カイゴロモであることが明らかとなった。このカイゴロモのスガイ以外の貝への着生報告はなく、カイゴロモはスガイにしか着生しないと考えられてきたがカイゴロモはスガイ以外の貝にも着生することが分かった。ウミニナに着生したカイゴロモは通年、喜々津港においてのみ見られ、それもスガイが生息し底質が砂泥質の海岸にのみ見られた。実験の結果からカイゴロモの遊走子の遊泳能力は低く、ウミニナとスガイの戯れにより遊走子が着生し、両者が共に潜砂するという行動がカイゴロモが繁茂できる環境を提供していると考えている。カイゴロモはスガイ特異的な「基質特異性」をもつという学説のもと多くの研究がすすめられてきた。しかし、今回の研究を通して、カイゴロモは一部の巻貝に着生できるものの、カイゴロモの繁茂できる環境や行動を提供できる巻貝のみでしか繁茂できないと思われる。この視点を踏まえた研究をさらにすすめていく必要がある。