| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S04-1 (Presentation in Symposium)
植食昆虫は植物の毒等の防御を生理適応だけでなく、植物を加工し行動的にも回避する。本講演では植物の乳管・乳液等による防御とそれを回避する植食昆虫の加工行動を紹介する。乳液は植物の葉脈等の傷口から滲出する白色の液体で乳管に蓄えられ多様な防御物質を含む。乳液は食害時に内圧により瞬時に乳管内を移動し食害地点から多量に滲出し昆虫は大量の高濃度の毒液を飲まされる(食害地点の防御物質濃度上昇は誘導防御に似る)。毒液輸送システムたる乳管・乳液による防御は経済的・効果的で何度も進化したが、輸送路切断で簡単に無力化可能という輸送システム特有の弱点をもち、この点を突いたのが乳液植物を食べる昆虫の葉脈切断(vein cut)・溝切(trenching)という加工行動である。演者らは野生イチジクのハマイヌビワで乳液中プロテアーゼの昆虫への致死効果を発見したが、イチジク専門食イシガケチョウ幼虫は中脈の一カ所の葉脈切断しその先(遠位)を平気で食べる。イチジク類の乳管は枝分かれ状なので一カ所の切断で遠位部の乳液滲出を防げるのだ。同様に乳液にプロテアーゼを含むパパイア食のスズメガ幼虫は葉に長い溝切りを行いその遠位部を食べると報告されている。パパイアの網目状乳管は無力化には一カ所の葉脈切断では不十分で溝切が必要で乳管構造と昆虫の加工行動との対応が示された。乳管は厳密に枝分かれ状・網目状に二分されないが、それでも植食昆虫の加工行動と乳管の性質は対応した。乳液防御物質(糖類似アルカロイド・MLX56タンパク質)に生理適応したクワ専門食のカイコは加工行動が不要で実際にしない。師管液を滲出するウリ科植物を食べるクロウリハムシも脈切をするが、我々はウリ科植物師管液からBPLP防御タンパク質を発見した。加工行動から防御機構の存在が解明された例である。他にも葉巻という加工行動が持つ植物防御への適応効果に関しても紹介する。