| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S04-2 (Presentation in Symposium)
鱗翅目は鞘翅目とともに最大の植食性昆虫のグループであり、大多数の種の幼虫は葉シェルター、穿孔、潜葉孔、網巣、ゴール、携帯巣を作成したり葉脈切断を行うなど、植物加工の習性をもつ。系統発生的にみると、まず原始的な鱗翅目において穿孔・潜葉習性が進化し、その後、シェルター作成、網巣、ゴール誘導などの植物加工が何度も繰り返して獲得された。植物加工の適応的意義として、おもに、(1)温度、湿度、風、紫外線などの微気候・非生物的条件の改善、(2)寄主植物の質の改良、(3)対捕食者・捕食寄生者防御の3つの要因が提案され検証されている。しかし、あまり研究されていない要因として、(4) 他の植食性昆虫からの資源の防衛、(5)寄主植物からの脱落防止、(6)移動・分散手段としての植物の利用、(7)集団生活から共同巣性への進化がある。また、適応的意義が不明な植物加工行動が多く、その解明が待たれている。
今回は(6)について、葉をパラシュートやグライダーとして利用する植物加工の例を2つ紹介する。ヒメクロイラガの幼虫は老熟すると、葉に乗って葉の基部を切断してパラシュート落下して土中で蛹化する。この行動はエネルギーの節約になり、土に潜ってしまえば天敵の攻撃を避けることができるが、アリに捕食されることが多い。一方、ヒメフサキバガは葉にシェルターを作った後、葉柄を切断される寸前までかじり、シェルターに戻る。そよ風が葉柄を切断し、幼虫は葉に乗ったまま風で吹き飛ばされて滑空する。幼虫はそのまま葉を食べてリター間で蛹化する。幼虫は広く分散されシェルターに守られるので、安全に地表へ降りて天敵の攻撃を回避できる可能性がある。
鱗翅目は幼虫の行動、生態の不明な種がほとんどであり、その植物加工行動に着目すれば、植食性昆虫の適応放散、寄主植物との関係、天敵からの防御の解明に大いに寄与するであろう。