| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S12-1  (Presentation in Symposium)

行動と内分泌間の正のフィードバックが代替生活史戦術の発現を引き起こす
Positive feedback between behavior and endocrine system causes the expression of Alternative life history tactics

*堀田淳之介(九州大学, 首都大学東京), 巌佐庸(関西学院大学), 立木佑弥(首都大学東京)
*Junnosuke HORITA(Kyushu University, TMU), Yoh IWASA(Kwansei Gakuin University), Yuuya TACHIKI(TMU)

自然界には種内で個体ごとに異なる生活史戦術を採用する生物が存在する。この現象は代替生活史戦術と呼ばれ、様々な分類群で知られている。代替生活史戦術の維持は状態依存戦略によって説明される。2つの戦術の適応度が個体の状態に依存する関数であり、各個体が、自身の状況に応じてより適応度が高い戦術を採用する状況を考える。すると適応度関数の交点(閾値)を境に採用される戦術が入れ替わり、単一個体群から複数の生活史戦術が出現する。サケ科魚類に属するサクラマスは、孵化後一部の個体は孵化した当年に河川で成熟するが(残留型)、他の個体は、海に降り成熟する(降海型)という代替生活史戦術を示す。これまでの研究では個体の状態を表す指標として体サイズが用いられ、大きい稚魚ほど残留型になる傾向が示されている。状態依存戦略の観点からは、体サイズが大きいことは河川内での闘争に有利に働くため大型稚魚ほど残留しやすいことが説明される。
一方で内分泌的な要因に着目すると、サクラマスの成熟に伴う形態や行動の変化にはテストステロンなどの成熟因子群が関与する。本研究では代替生活史の意思決定について内分泌系を考慮したモデルを提案する。成熟因子群は個体間の闘争で勝利することで産生量が増加することが知られている。そこで、個体間闘争と成熟因子、体サイズ成長を定式化し、稚魚個体群において発達過程での体サイズとホルモンの時間変化を調べた。その結果、体サイズが大きく、成熟因子が多いほど個体間での闘争の勝率が大きくなり、勝利した個体はより成長しやすく、成熟因子の産生量も多くなる正のフィードバックが強く働くときに、ホルモン量が個体群レベルで明瞭なクラスターを形成した。成熟因子群に依存して代替生活史戦術が誘導されると考えると、闘争などの社会的要因と内分泌系間のフィードバックがこれに重要であると考えられる。


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