| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S12-2  (Presentation in Symposium)

太平洋サケの同一種内に見られる降海型と河川残留型
Migratory and resident forms within the same species

*棟方有宗(宮城教育大学)
*Arimune MUNAKATA(Miyagi University of Education)

太平洋サケ属の一種であるサクラマスでは、川で生まれ、終生の河川生活をおくる稚魚(河川残留型)の一部が約1歳半の春に降河回遊型(降海型)に相分化する。相分化に最初に影響を及ぼすとされる要因が、稚魚期に起こる、好適な摂餌環境を巡る縄張り争い(個体間作用)だと言われる。これに勝った優位な個体(dominant)は良好な成長を背景に早期の性成熟を開始し、早熟魚となってそのまま河川生活を続ける。一方、劣位となった個体(subordinate)は未成熟な状態で銀化変態を行って降海型(スモルト)になり、それらの多くが川から海への降河回遊行動を発現する。
銀化変態の過程では、種々のホルモンや受容体が発現し、体色の銀白色化などの形態学的変化や、海水適応能の獲得といった生理学的変化が起こる。またその後、スモルトは融雪による増水や濁りといった環境刺激のストレスによって降河回遊行動を発現する。これらのことから、サクラマスの降河回遊行動の発現は、個体間作用などの環境要因、それをスモルト(相)への分化に結び付ける生理的(内分泌)機構、さらには環境刺激のトリガーによって降河回遊行動の発現を解発する脳の行動発現中枢、といった複数の階層によって多重に調節されると考えられる。そこで今回は、特に降河回遊行動の発現調節に関わる生理的機構について概観したい。上述の通り、降河回遊行動は劣位の個体が行うことから、その実態はストレスによって解発される、一種の逃避行動と考えられる。サクラマスではこの行動が適切なタイミングで発現されるように、換言すればスモルト以外ではいたずらにこの行動が発現しないような生理的な安全機構を備えていると思われる。それが、段階的に発現する複数のホルモンによる多重機構によってなされていることについても論じたい。


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