| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S12-3  (Presentation in Symposium)

鳥類の渡りパターンの変異はどうして存在するのか?ー先行研究から見えることー
Variation in the migration pattern of birds: a review

*中原亨(北九州市博)
*Toru NAKAHARA(Kitakyushu Mus NatHist HumHist)

鳥類の中には「渡り」を行うものが数多く存在し、そのパターンは多様である。一般に渡り鳥は毎年同じ繁殖地と越冬地を往復する。しかし種内に目を向けると、渡りを行うもの(移動型)と行わないもの(定住型)が混在する個体群が存在する場合がある(partial migration)。また、個体に目を向けると、必ずしも同じ場所まで渡るのではなく、環境依存的に渡り先を変更することもある。渡りパターンの多様性の存在は、従来、足環を使った標識調査や室内飼育実験において確かめられてきた。近年では、安定同位体解析や遠隔追跡技術の発展によって個体ごとの移動履歴が分かるようになり、渡りパターンの詳細が明らかになりつつある。
本発表では、鳥類における種内・個体内の渡りパターンの多様性に注目する。はじめに、鳥類の渡りの至近メカニズムを説明したうえで、多様な鳥類の渡り様式を整理する。次に、種内の渡りパターンに焦点を当て、鳥類のpartial migrationがどのように生じると考えられているかについてレビューする。また、ズグロムシクイやクロウタドリなどのpartial migrationが見られる種において、飼育下で移動型個体群と定住型個体群の個体同士の交配を行った古典的な実験例や、同一繁殖地に生息する移動型・定住型個体を比較し、ホルモンレベル・遺伝子配列・遺伝子発現等の差異を調べた研究例を紹介する。さらに、個体の渡りパターンに焦点を当て、積雪などの外的要因が個体の移動に与える影響について調べた研究例を紹介する。そして最後に、渡りパターンの多様性がどのような進化的帰結をもたらすのかについて議論する。


日本生態学会