| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S12-4  (Presentation in Symposium)

遊動的な草食哺乳類モウコガゼルの種内多様性と移動要因解明に迫る複合的アプローチ
Multiple approach to analyze intraspecific variability and migration factors in Mongolian gazelles

*伊藤健彦(鳥取大学), 宮崎淳志(京都大学), 小山里奈(京都大学), 飯島慈裕(三重大学), 木下こづえ(京都大学), Lhagvasuren BADAMJAV(Mongolian Academy of Sciences)
*Takehiko ITO(Tottori University), Atsushi MIYAZAKI(Kyoto University), Lina KOYAMA(Kyoto University), Yoshihito IIJIMA(Mie University), Kodzue KINOSHITA(Kyoto University), Lhagvasuren BADAMJAV(Mongolian Academy of Sciences)

モンゴルの草原地帯を中心に生息するモウコガゼルは世界的にも有数の長距離を大群で移動する陸上大型草食哺乳類である。しかし講演者らのグループが2002年から開始した衛星追跡により、ひとつの連続的な分布域のなかでもモウコガゼルの移動距離や移動パターンには地域差・個体差・年変動が存在することが明らかになった。同じ地域で同時に追跡を開始した個体のなかには、長距離を移動した個体と、年間を通して大きな移動をしなかった個体が存在した。複数年追跡された同一個体に明確な移動期と滞在期があった年もあれば、年間を通して大きな移動をしなかった年もあった。このような、移動時期や移動ルート、季節的な利用地域が不規則で、個体間でも動きが異なるモウコガゼルの遊動的な移動は、降水量や植生、積雪などの環境条件の季節変化と年変動およびその地域差が大きい生息地への適応だと考えられる。しかし、同一地域・同一時期で個体間の移動パターンの違いを生む要因や、滞在期と移動期という移動フェーズの切替要因はほとんどわかっていない。この謎を解明するために、従来の数時間間隔の個体の位置データと、衛星画像などから得られる植生指数や積雪などの環境情報に加え、連続的な活動データと、より時間的・空間的解像度の高い植生指数や降水データなどを利用した解析を開始した。さらに環境条件と個体の行動をつなぐ生理的な情報として糞中ホルモンを分析中である。環境条件に対応して長距離を遊動するモウコガゼルは移動生態学の研究対象として興味深いが、この特徴と警戒心の強さは詳細な観測が難しいことも意味する。複数の最新の技術と生理学の融合からこの困難を克服し、野生陸上草食哺乳類における移動生態学から移動生理生態学への発展を目指した複合的な研究アプローチを紹介する。


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