| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S13-2 (Presentation in Symposium)
北方林土壌を対象としたこれまでの加温実験によれば、3~6℃の平均地温の上昇によって、土壌からの年CO2放出量が11~45%上昇することが報告されている。しかし、これらの実験では、加温効果が経年減少する場合が多く、分解しやすい炭素が数年で減少してしまうことがその要因として考えられている。一方、様々な生態系を対象とした統合研究によって、寒冷な気候帯で、土壌炭素量が増えるほど、温度上昇により土壌からのCO2放出量が増えることが近年明らかにされており、北方林やツンドラ植生が巨大な炭素の放出源となることが懸念されている。本研究では、土壌中に炭素が豊富に存在する、排水された泥炭上に成立している冷温帯針広混交林において、土壌を長期加温する野外操作実験を行い、加温処理に伴う微生物呼吸量の変化を明らかにすることを目的とした。
北海道大学天塩研究林内に人工的に造林した30年生の針広混交林において、2007年~2019年の無積雪期間に土壌加温操作と微生物呼吸量の1時間毎連続観測を行った。5㎝深地温を約3℃上昇させる加温処理によって、微生物呼吸量は最大年で46%/℃増加し、12年経過後も増加率の上昇が継続していた。加温効果は既存の研究と比べてとても大きく、豊富に炭素が含まれている土壌では、加温効果は長期に渡って継続することが明らかになった。加温処理により直接的に炭素分解量が増加する効果に加えて、土壌水分含量が低下することにより分解可能な炭素が増えることや、土壌動物の活動が活発になることにより分解量やCO2拡散経路が増えることがその要因として考えられた。落葉・落枝量が多い年ほど、その年の加温効果(加温処理による微生物呼吸量の増加率)が大きくなる強い線形の関係が認められ、加温効果には土壌への当年の炭素供給量が大きな影響を与えていることが明らかになった。