| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S14-3  (Presentation in Symposium)

日本の氾濫原生態系研究
Research on floodplain ecosystems in Japan

*根岸淳二郎(北大地球環境)
*Junjiro NEGISHI(Hokkaido University)

生物多様性が高く多くの生態系サービスを提供する氾濫原生態系は我が国にも多く存在する。しかし、その多くで人為的な環境変化に伴い氾濫原環境に依存した生物相の個体数の変化や生息範囲の縮小が報告されている。このような背景から、近年氾濫原生態系に注目した研究事例数は増加し、多くの地域で多用な分類群を対象に進展している。魚類や底生動物などの水生動物に注目すると、ワンドやたまりなど堤外地に残された河道内氾濫原、旧河川や後背湿地として堤内地などに残る河道外の氾濫原、そして水田水路が主な研究対象となっている。自然度の高い原生状態の氾濫原生態系の構造や機能を対象にした事例は稀有である。多くの事例は、人為的活動に関連付けて劣化した生態系の現状を報告、あるいは保全・再生への課題や糸口を提案している。前者は人口密集度が低い北海道の事例などが該当し、本州で実施されている事例はその多くが後者に該当する。対象となる生物種の群集構造や生活史特性などの基礎生物学的な知見に加えて、集団遺伝構造、そして物質循環や水文学的な環境条件など多角的な情報を集約した生態学的知見が集積しつつある。氾濫原では非生物的環境の時間的変動や空間変異が生物相や物質循環を強く支配し、その過程では様々な生物間相互作用も観察される。その元来の特性から氾濫原は湿地的であり、フィールドワークは、濁り・ぬかるみ・ハエ目との闘いであるが、生態学研究の対象としては新たな発見や驚きが得られる魅力的な場である。一方で、水位や冠水などの環境変動の程度や水域間の連続性など土木事業で操作可能な物理場の特性との関連性を明確にすることで、氾濫原生態系研究から得られる知見の生態系管理における有用性は著しく高まる。洪水頻発により想定外の湿地環境が出現しつつある中で、本分野での生態学に期待される役割は大きく一層の研究進展が望まれる。


日本生態学会