| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S14-4 (Presentation in Symposium)
河川生態系を形成する3つのつながり(縦断、横断、垂直方向)は、ダムや堤防、流域の土地利用によって分断されてきた。これらの事例を示すとともに、これまで実施してきた研究から、保全・復元などの解決策を示す。一部ではあるが、ダムの改良、蛇行河川の復元、水辺林の再生などのreach/segmentレベルの解決策によって、失われたつながりが再生され、植物や魚類、水生昆虫等の回復に寄与したと考えられる。しかし、日本の河川・氾濫原にとって、戦後の人間活動によるインパクトは甚大で、河川生態系の基盤をなす、flow regime、sediment regime、そしてforest dynamicsの変化が流域を通じて、長期にわたって影響を与えている。近年、この3つの要素バランスが崩れていることが顕在化しており、1-2m程度の河床低下と河道の樹林化が全国の河川で起こっている。その結果、水域はもちろん陸域の生物相にも影響を及ぼしている。こうしたcatchmentレベルのレジームシフトは不可逆的であり、仮に回復が可能であるとしても、長い時間を必要とし、成功事例はきわめて少ない。
2019年台風19号による河川氾濫に見られるように、我々は気候変動という新たな脅威を抱えることになった。気候変動は上に述べた3つのレジームをさらに変化させるであろう。ここでは、気候変動と日本の人口減少、そして土地利用の変化に着目して、グリーンインフラの考え方、生物多様性保全について述べる。そして、災害後の原形復旧(災害前の状態に戻す)を批判したい。東日本大震災の津波で海岸林が破壊され、湿地や砂地生態系が新たに形成されても、それを良しとせず、再び海岸林に復元することを目標とする。更に撹乱後に残されたbiological legacyを徹底的に取り除き、整地して環境を均質化する。元に戻すことばかりが重視され、被災を受けた地域社会が未来に対してどのように発展すべきか、という視点が失われる。グリーンインフラを活用した未来復興を考えるべきである。