| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨
ESJ67 Abstract


シンポジウム S14-5  (Presentation in Symposium)

河川環境管理におけるEcoDRRの可能性と実装に向けた課題
Difficulties and possibilities of Eco-DRR for stream managements

*竹門康弘(京都大学防災研)
*Yasuhiro TAKEMON(Kyoto University)

日本の流域の多くは,盆地と狭窄部並びに扇状地と沖積平野を組み合わせた構造の下、火山噴火・地震・津波・台風・集中豪雨などの自然異変(ハザード)を高頻度・強強度で受ける風土にある。このため日本列島には自然異変に適応した生物が多く、生態系の構造や機能に自然撹乱が重要な役割を果たしている。本講演では、河川環境を持続的に利用していく上でEcoDRRが理に適っていることを示し、EcoDRRを社会実装していくために解決するべき課題と具体的な進め方について提案する。
1)自然異変の生態機能研究
自然異変により形成される砂州、干潟、砂嘴、砂丘、後背湿地などは、生態系にとって重要な生息場機能を果たすと考えられる。既存研究は,撹乱からの回復過程を捉えがちだったので、自然異変の果たす積極的役割を追究する必要がある。
2)異変利益の価値評価
 氾濫源農業や水産業は自然異変の利用事例である。自然異変に対して,防災の視点のみならず資源利用の視点を導入し,土石流,斜面崩壊,洪水,高潮,津波などの土砂生産や移動エネルギーを異変利益として評価・活用する技術を開発する必要がある。
3)土砂移動を想定した河川管理への移行
 これまでの治水対策は固定床の水理計算に基づいて計画されている。これでは、自然異変に伴う土砂生産と土砂移動を予測できない。効果的な治水対策のためには、移動床の土砂水理計算に基づいた河川管理に移行する必要がある。
4)EcoDRRにおける環境防災学的研究
 大規模の自然異変では地形や環境の改変を防ぐことはできない。EcoDRRの計画策定において,災害後の環境変化を予測し,変化した環境を生活再建に役立てるための環境防災学的研究が求められる。
5)環境保全と減災の両立を図る政策転換
 これまでの「施設に頼る防災対策」から「減災を基本として自然異変を受け入れる対策」に政策転換する必要がある。とくに河川管理においては、洪水等の自然異変の資源的価値を組み込んだ統合的流域管理が重要である。


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