| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第67回全国大会 (2020年3月、名古屋) 講演要旨 ESJ67 Abstract |
シンポジウム S19-1 (Presentation in Symposium)
野外生態データの変動を規定する主な要因として、分布や個体数などの本質的な変動を決定付ける生態過程と、測定誤差などの無意味な(あるいは煩しい)変動を付加する観測過程の2つが挙げられる。階層モデリングは、生態学的に解釈できる潜在変数を導入し、これら2つの過程のそれぞれを表す部分モデルを組み合わせた統計モデリングの手法である。
特定の目標に向けて事業とモニタリングを繰り返す応用生態の文脈において、階層モデリングには大別して2つの利点があると考えられる。1つ目は、モニタリングデータの柔軟な解析手法としての利点である。対象の系における状態変数の水準やトレンド、その要因解析について、不完全な発見や観測の異質性を踏まえた推測が可能となり、事業評価に直接役立てられる。2つ目は、調査設計の道具としての利点である。階層モデルを用いた模擬数値実験を行えば、目標に対して有効なデザインやプロトコルを発見的に探索できるようになり、事業の計画や改善に役立てられる。
このように階層モデリングは、応用生態の基本である順応的管理の各手続きに対して、実用的かつ一貫した解決を与えるものとみなせるだろう。階層モデリングの概念や手法によって生態系の観測・管理・保全をどのように高度化できるのか、その可能性を議論したい。